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東京地方裁判所 昭和31年(行)60号 判決 1963年6月27日

千葉県印旛郡印西町大森三、八五五番地

原告

影山芳郎

右訴訟代理人弁護士

関原勇

右訴訟復代理人弁護士

倉田哲治

根本孔衛

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

谷川広

右指定代理人検事

広木重喜

法務事務官 那須輝雄

大蔵事務官 篠原章

岡田愛巳

小熊実

右当事者間における当庁昭和三一年(行)第六〇号課税処分取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は請求の趣旨として「被告が昭和三一年四月二日に原告の昭和二九年度総所得金額につきなした原告の審査請求を棄却する旨の決定中一八八、八四二円を超過する部分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

一、請求の原因

(一)  原告は、千葉県印旛郡印西町で店舗においてそばその他の飲食物の提供販売することを業としているものであるが、成田税務署長に対し、昭和二九年度(昭和二九年一月ないし同年一二月、以下同じ。)の所得税に関し、同年度の総所得金額を二三〇、二四七円とする確定申告をしたところ、同税務署長は、右金額を三一二、五九六円とする旨の更正処分をした。そこで原告は、被告に対して審査の請求をしたところ、被告は昭和三一年四月二日、成田税務署長の処分を認容して原告の請求を棄却する旨の決定(以下本件決定という。)をした。

(二)  しかしながら、原告の昭和二九年度の収支計算は別表一原告の主張額らん記載のとおりであつて、総所得金額は一八八、八四二円であるから、本件更正処分は違法であり、これを認容した本件決定もまた違法である。

二、請求の原因に対する答弁及び被告の主張

(一)  請求原因(一)記載の事実は認めるが、同(二)記載の事実は否認する。

(二)  昭和二九年度における原告の収支計算は別表一被告主張らん記載のとおりであつて、同年度の総所得金額は三五三、九七四円であり、本件決定によつて認容した本件更正処分における認容額三一二、五九六円はその範囲内であるから本件決定は適法である。以下右収支計算のうち原告が否認する部分についてその根拠を明らかにする。

(1) 昭和二九年一〇月から同年一二月までの売上金額について

(イ) 原告の売上高の計算については昭和二九年一〇月から同年一二月までの分について帳簿が不備であり、またその記帳が信頼できなかつたので、推計計算の方法により計算したが、その方法は次のとおりである。

(ⅰ) 昭和二九年一月から同年九月まで(以下前期という。)の売上高七五四、九三四円(各月別売上高が別表四原告主張のとおりであることは認める。)とこれに対する仕入高四〇三、八三九円とから計算すると右期間の販売差益率は八六パーセントとなる。

(ⅱ) 昭和二九年一〇月から同年一二月まで(以下後期という。)の仕入高は二一一、九四〇円であるから、右金額と前記差益率八六パーセントによつて計算すれば右期間の売上高は三九四、二〇八円となる。

(ロ) 原告は、前期の売上げと後期の売上げに販売差益率の相違があるのは、右両期間内の販売品目の種類と量が異なるためであると主張するが、原告主張の売上高に対応する各月別仕入高の内訳は別表二のとおりであつて同年一一月以降はいずれの品目の仕入高にも大巾な増加をみることができる。(なお、同年一〇月分は小麦粉仕入高の減少が認められるが、酒、米類の仕入高は増加している。)したがつて、同年一一月以降は酒、丼物のみならず、そば類も相当売上高が増加していたということができ、販売品目の種類等にさしたる変化は認められないのみならず、翌昭和三〇年度の一月から九月までの差益率と一〇月から一二月までの差益率とを比較してもさしたる差異がないことからしても原告の主張は理由がない。

(2) 修繕費について

原告主張の修繕費中、(イ)二三、〇〇〇円及びその他として一九、八九八円(原告が確定申告の際にその他の修繕費として申し出た二九、四九八円からテーブル購入代金九、六〇〇円を控除した額)合計四二、八九八円を認め、(ロ)三〇、八〇三円は否認する。

(3) 消耗品費について

原告主張の消耗品費中、割箸その他の費用一三、二一五円を認め、その余を否認する。原告主張の瀬戸物類、氷機はいずれも昭和二八年以前に購入したものであるから本件係争年度の消耗品費として計上すべきではなく、営業用テーブルは耐用年数が一年以上であつて、所得税法施行細則第四条但書の適用があるから減価償却費を計上すべきであつて、消耗品費として計上すべきではない。

(4) 減価償却費について

(イ) 原告の固定資産のうち減価償却の対象となるべきもの、その取得時期、取得価額、耐用年数および所得税法施行規則第一二条の一一第一項第一号、第四項により所得価額より一割を差し引き、残額を耐用年数で割つて計算した減価償却費は別表三被告主張らん記載のとおりであり、4、5の(1)及び6については原告の主張を認める。なお、冷蔵庫については原告が中古品を購入取得したものであることは争わないが、これは耐用年数の計算上からみると新品と同程度のものを取得したものである。

(ロ) 原告が減価償却費を計上する物件のうち、原告がその主張の家屋増築部分の所有権を取得したことは認めるが、いずれも昭和二年に取得した木造のものであつて、その耐用年数は二七年であるからすでに昭和二八年度において減価償却済みである。したがつて、昭和二九年度において減価償却費を計上すべきではない。また同じく、せいろ、盆、釜、食器戸棚、出前箱はいずれも取得価額が一〇、〇〇〇円未満のもので、所得税法施行細則第四条本文の適用があるから減価償却費に計上すべきでない。

三、被告の主張に対する原告の答弁及び原告の主張

(一)  昭和二九年一〇月から一二月までの売上高について

(1) 昭和二九年一月から同年九月までの売上高分び販売差益率、昭和二九年一月から同年一二月までの各月別仕入高がいずれも被告主張のとおりであること(ただし、七月分の仕入金額は被告主張額より三円多く、八月分の仕入金額は被告主張額より三円少い。)は認める。また成田税務署長が推計計算の方法をとつたこと自体についての適否は争わない。しかし被告が昭和二九年一月から九月までの差益率をそのまま同年一〇月から一二月までの分について適用して推計したのは不当である。

(2) 原告の昭和二九年度における各月別の仕入高、売上高、差益率は別表四のとおりである。右表によると一〇月から一二月までの分の差益率は他の月に比較して低いが、これは次のような理由による。すなわち、原告が飲食店を経営する場所は純農村に属し、主として農家を相手とするものであるから作物の出来、不出来又は農繁期によつて売上高が影響を受けるのが通常であり、一〇月から一二月までの間は農村では米の収穫期のため、そば類の売上げが少くなるのに対し、そば以外の商品の売上げが反対に増加するが、そば以外の商品は、仕入金額が高く差益率が低いので、全体としては差益率が低下するのである。各月別の仕入高の明細は別表五のとおりである。

(二)  修繕費について

昭和二九年度の修繕費は次のとおりである。

(イ) 二三、〇〇〇円

大工手間 八、五〇〇円

ぶりき屋手間賃 二、〇五〇円

ふきん 九〇円

やかん 七〇〇円

たわし 三六〇円

箒 一、二五〇円

七輪 六〇〇円

雑巾 六〇〇円

出前用雨具 一、三〇〇円

長靴 七五〇円

座敷畳張替 五、六八〇円

障子紙 一、一二〇円

(ロ) 三〇、八〇三円

電球 一、九四五円

こんろの芯、部品類 六一〇円

あんどん 三、〇〇〇円

包丁 一一〇円

丼 一、八〇〇円

漆器 五、四〇〇円

硝子(入替) 一〇〇円

建具等の金具 六、九一四円

電蓄ラジオ部品 一、五〇〇円

店舗改修材木代 七、六八九円

土管埋設 一、〇〇〇円

パンク修理費 八〇円

ラジオ修理費 四一〇円

氷機修理費 二四五円

(三)  消耗品費について

昭和二九年度の消耗品費は次のとおりである。

(1) 割箸その他の費用 一三、二一五円

(2) 瀬戸物類 二、五〇〇円

(3) 氷機 三、〇〇〇円

(4) 営業用テーブル 九、六〇〇円

右(2)(3)(4)はいずれも原告が昭和二九年中に取得したものであつて取得価額が一〇、〇〇〇円未満のものであるから所得税法施行細則第四条本文により消耗品費として損金に計上したものである。

(四)  減価償却費について

(1) 原告の固定資産のうち減価償却の対象となるべきもの、その取得時期、取得価額、耐用年数、所得税法施行規則により計算した減価償却費は別紙図面(家屋)及び別表三原告主張らん記載のとおりである。

(2) 耐用年数について次のとおり主張する。

(イ) 麺機械

修繕を加えれば相当長期間使用できるが修繕費を計上しない以上耐用年数は五年とするのが相当である。

(ロ) 冷蔵庫

三年間使用済の中古品を購入したものであるから、新品の耐用年数五年から右三年を差し引いた二年が耐用年数である。

(ハ) 電蓄

店舗に置くため客が手を触れて痛み易く、また短期間のうち流行に遅れるので耐用年数は長くとも五年が相当である。

(3) 家屋は原告が別紙図面のとおり昭和二四年から同二八年までの間に木原幸太郎から賃借している同人所有の家屋に合計一二坪五合を合計金一〇〇、〇〇〇円で増築し、右賃貸人との特約によつて右増築部分の所有権を留保したものである。

(4) 昭和二九年一二月に九、六〇〇円で購入した営業用テーブルは所得税法施行細則第四条により減価償却の対象とはならないので消耗品費として計上した。

第三、立証

一、原告訴訟代理人は甲第一号証を提出し、証人檜山義介、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一、二、第三号証の一ないし三、第八、第九号証、第一一号証の一の各成立を認め、乙第二号証中塚田正雄の署名捺印部分の成立は不知、その他の部分の成立は認める。乙第七号証、第一〇号証中各大蔵事務官の署名押印部分の成立を認めその余の部分は不知、乙第五号証中決裁らんの印影の成立、乙第六号証の一中税務署の収受印の成立をそれぞれ認め、その余は不知、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

二、被告指定代理人は乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一ないし三、第四、第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一、二を提出し、証人大古勇之助(第一、二回)、同鎗田健亮、同平岡敞至の各証言を援用し甲第一号証の成立を認めた。

理由

請求の原因(一)の事実、昭和二九年一月ないし九月の各月別売上高が別表四、一月ないし九月の各欄のとおりでその合計額が七五四、九三四円であること、同期間の平均販売差益率が八六パーセントであること、同年一月から一二月までの仕入高が六三三、三八八円であること、自家消費分が六二、五〇〇円、期首棚卸高が八、七五一円、期末棚卸高が一三、六〇〇円であること損金中、公租公課二二、八三〇円、水道光熱費四〇、三四五円、旅費通信費一九、三三〇円、広告宣伝費四、六六〇円、交際費一五、七〇〇円、福利厚生費三、七八〇円、雑費九、二八〇円、傭人費一八、〇〇〇円、地代家賃一四、四〇〇円の支出があつたこと、修繕費として、大工手間八、五〇〇円、ぶりき屋手間賃二、〇五〇円、ふきん九〇円、やかん七〇〇円、たわし三六〇円、箒一、二五〇円、七輪六〇〇円、雑巾六〇〇円、出前用雨具一、三〇〇円、長靴七五〇円、座敷畳張替五、六八〇円、障子紙一、一二〇円、合計二三、〇〇〇円の支出があつたこと、消粍品費中割箸その他の費用一三、二一五円の支出があつたこと、別表三減価償却費中かまど三、六〇〇円、椅子、テーブル(昭和二八年以前購入のもの)九、〇〇〇円、自転車四、九五〇円、合計一七、五五〇円の損金計上があつたこと、は当事者間に争いがない。

被告は、昭和二九年一〇月から同年一二月までの売上高は当事者間に争いのない同年一月から九月までの間の売上高七五四、九三四円と、これに対応する仕入高四〇三、八三九円から算出した販売差益率八六パーセントを、当事者間に争いのない右期間の仕入高二一一、九四〇円に乗じこれに右仕入高を加算した三九四、二〇八円が同期間における売上高であり、その販売益金は一八二、二六八円であると主張し、原告は、右一〇月ないし一二月間の売上高の計算において同年一月から九月までの間の販売差益率八六パーセントを適用して推計したことは不当であり、右一〇月ないし一二月間の売上高は、二七九、三〇五円、販売益金は六七、三六五円であるとして争うので、この点について判断する。

一定期間の販売差益率を他の一定期間に適用して販売益金を推計計算することは、青色申告の場合ならびに納税義務者が収入及び支出を明らかにしうる帳簿を備え、かつ証憑書類を完備してみずからその所得を明らかにしうる場合を除いては、納税義務者が右両期間相互の間に販売差益率に変更をきたすような特別の事由の存在を明らかにしないかぎり肯定されなければならない。

しかるに、原告の本件係争年度の所得について青色申告のなされたことは主張、立証がない。そこで、原告が、その収入及び支出を明らかにしうる帳簿を備え、みずからその所得を明らかにするに足りる証憑書類を完備していたか否かについていてみると、証人大古勇之助(第一、二回)同鎗田健亮の各証言、証人大古勇之助(第二回)の証言によつて真正に成立してものと認められる乙第一一号証の一、二を綜合すると、原告は売上帳、仕入帳及び経費帳、仕入の裏付けとなる領収証、納品書、出金伝票を備えていたことがうかがわれ、仕入れ、経費の支出についてはほぼ正確であつたことがうかがわれるが、売上げについては、いわゆる売り溜りの金額を毎日売上高として記帳し、右金額からは仕入れ、経費等に要した金額が支払われたときもその残額がそのまま売上高として記載されたと思われることもあつてその金額が不正確であつたこと、したがつて右原告の備えつけていた帳簿、証憑書類のみをもつてしては原告の所得を明らかにすることはできなかつたことが認められ、右認定に反する証人檜山義介の証言部分及び原告本人尋問の結果は前記各証拠及び大蔵事務官の署名捺印部分の成立について争いがないから、全部真正に成立したものと推定できる。乙第一〇号証にてらしてみるとこれを措信することはできず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そこですすんで、右前期と後期との間に販売差益率に変更をきたすような特別の事由の存否について判断する。

原告は、後期はそばの売上が減少し、そば以外の商品の売上げが増加するため、差益率が低下する旨主張するけなども、こなを認めるに足りる証拠なく、むしろ、証人平岡敞至の証言によつて真正に成立したことが認められる乙第二、第四、第五号証及び第六号証の一、二によれば、一年を通じて原告居住の千葉県印西町の同業者の営業が閑散な時期は五、六月ころと、九月から一〇月初めごろで、特に売上も多く忙しくなるのは一〇月下旬ころ、一一月中旬から翌年二、三月ころまでの農閑期であり、一月ないし九月と一〇月ないし一二月との間に特に繁閑の差は目立たず、また、売上の多少と荒利益率とはさしたる関係のないことが、また原告本人尋問の結果によれば、販売差益率は丼物が最も高く、そば、酒類の順に低下すること、七、八、九月は丼物が売れず、そば類は一〇、一一、一二月及び一月に売上げが伸びることが認められ、右各事実に徴すれば、原告の営業においては前期と後期で差益率にさしたる差異のなかつたことがうかがわれる。

そうであれば、前期と後期との間に差益率の高低があつて後期の差益率が低下するという原告の主張は採用できず、被告が当事者間に争いのない後期の仕入高二一一、九四〇円に前期の平均差益率〇・八六を乗じて販売益金を算出し、これに右仕入高を加算した額三九四、二〇八円を後期の売上高として計上したことは相当である。

次に、原告は係争年度の修繕費は五三、八〇三円であると主張し、被告はこれを四二、八九八円であるとして争うのでこの点について判断する。

係争年度中に四二、八九八円を越える修繕費の支出があつたことを認めるに足りる証拠なく、むしろ成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、証人大古勇之助(第一、二回)同鎗田健亮の各証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和三〇年六月一三日付で昭和二九年分所得税の再調査請求書(乙第三号証の一)を成田税務署長あてに提出し、昭和二九年度営業経費明細書(乙第三号証の三)をこれに添付しているが、右明細書によれば確定申告に修繕費として計上されているものは店舗修繕大工手間賃八、五〇〇円、ぶりき屋手間賃二、〇五〇円、ふきん九〇円、やかん七〇〇円、たわし三六〇円、箒一、二五〇円、七輪六〇〇円、雑巾六〇〇円、出前用雨具一、三〇〇円、長靴七五〇円、座敷畳張替五、六八〇円、障子紙一、一二〇円、その他の修繕費二九、四九八円、合計五二、四九八円であること、右原告の再調査請求によつて昭和三〇年九月ころ調査に赴いた当時成田税務署直税課所得税第二係長をしていた大古勇之助及び原告の審査請求によつて昭和三一年二月ころ原告方へ調査に赴いた東京国税局千葉支部協議官鎗田健亮が前記営業経費明細書を逐一検討した結果同明細書に記載されていた各支出は原始記録に大体照合合致し、その他の修繕費二九、四九八円も一々突き合わせた結果これを判定することができたこと、当時大古に対し原告からこの他に修繕費としての支出がある旨の申出はなかつたこと、成田税務署長及び被告は右修繕費五二、四九八円からテーブル代九、六〇〇円を控除した四二、八九八円を修繕費として認定したこと及び前記その他の修繕費二九、四九八円の中には、原告が本訴において消粍品費として損金に計上主張しているテーブル購入代金九、六〇〇円が含まれていることが、認められる。

そうであれば、昭和二九年度における修繕費は五二、四九八円から九、六〇〇円を控除した四二、八九八円である。

次に、原告は係争年度における消粍品費は五三、八〇三円であると主張し、被告は瀬戸物類二、五〇〇円、氷機三、〇〇〇円、営業用テーブル九、六〇〇円が消粍品費として計上されていることを争うのでこの点について判断する。

原告主張の瀬戸物類、氷機を係争年度中に購入したことを認めるに足りる証拠なく、むしろ、成立に争いのない甲第一号証、乙第三号証の二、三、証人大古勇之助(第一、二回)同鎗田健亮の各証言によれば、瀬戸物類二、五〇〇円は原告方店舗に昭和二九年一二月三一日当時存在したすべての瀬戸物類の合計額であり、大古勇之助及び鎗田健亮が調査の時に原告から聞いたところにより右瀬戸物類は昭和二八年以前に購入したものであつて、係争年度に購入したものではないと認め、成田税務署長及び被告は右調査にもとづいて、すでに昭和二八年以前の年度において経費として計上されているものとして、これを消粍品費あるいはその他の損金として認定しなかつたこと。氷機が取得価格三、〇〇〇円であつて、大古勇え助は調査の時に原告からその購入年度を聞いてすでに償却済であると判定し、鎗田健亮も昭和二八年度以前の経費に算入されているものと認め、成田税務署長及び被告はこれを消粍品費その他の損金として認定しなかつたことが認められ、営業用テーブル九、六〇〇円については取得年度が昭和二九年であることは当事者間に争いがない。

そうであれば、瀬戸物類二、五〇〇円は昭和二八年以前に購入されすでに過年度において経費として計上されたものと判断され、また氷機三、〇〇〇円についても同様昭和二八年以前に購入され、すでに過年度において経費として計上されたものと解すべきである。次に、営業用テーブル九、六〇〇円は取得価格が一〇、〇〇〇円以下の固定資産であるが、事業の開始又は拡張のために新たに所得の基因となり、又は事業の用に供されたものであることを認めるに足りる証拠がなく、したがつて所得税法施行細則第四条本文の適用のある固定資産であるものというべきであるからこれを減価償却の対象とすることはできず、その取得の年度に従つて損金として計上すべく、ただそれが、消費の過程にはいらなかつた場合には棚卸資産として評価計上され損金から控除されることがあるのみであるが、右営業用テーブルが消費過程にはいつたものであることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるから、これを費目上消粍品費として計上することの会計学上あるいは簿記学上における当否は別として、損金として計上することは所得税法上許容されるところというべきである。したがつて、前認定のように右営業用テーブルの取得価額は確定申告において修繕費として計上されているのであるから、これを原告が消耗品費として計上したからといつて総所得金額に影響はないのであつて、本件においては右九、六〇〇円を消耗品費として損金に算入するのが相当である。

そうであれば、係争年度における消耗品費は当事者間に争いのない一三、二一五円に営業用テーブル九、六〇〇円を加算した額合計二二、八一五円であることが計数上明らかである。

次に原告は減価償却費について麺機械の耐用年数を五年、電蓄の耐用年数を五年とし、被告は麺機械について一五年、電蓄について八年であると争うのでこの点について判断する。

麺機械は、昭和二六年五月三一日大蔵省令第五〇号「固定資産の耐用年数等に関する省令」(以下大蔵省令第五〇号という。)別表二機械及び装置番号31めん類製造設備に該当し、その耐用年数は一五年であることが法定されており、たとえその修繕費が計上されていなかつたとしても右耐用年数に消長をきたすべき筋合いのものではないから、この点に関する主張は理由がない。また、電蓄は同省令別表第一機械及び装置以外の有形固定資産、「種類」、器具及び備品、「構造又は用途」、旅館、ホテル、料理店、貸席、飲食店、酒場、舞踏場その他接客業用のもの、「細目」、その他のものに該当し、その耐用年数は八年と法定されており、たとえ、店においてあり、客が手を触れるもので痛み易く、流行に遅れる品物であったとしても、同省令別表に法定する耐用年数は、千差万別の器具、備品について、それぞれ個々各別にこれを定めることは不可能であるから、税法上一定の基準のもとに画一的に定められるものであってみれば、右のような事情によつて個々に耐用年数を伸縮することは所得税法及び前記大蔵省令の趣旨からいつて到底是認できないものといわなければならず、原告のこの点に関する主張は理由がない。

したがつて、昭和二九年度における麺機械の減価償却費は一、八〇〇円、電蓄の減価償却費は三、九三七円となることは計数上明らかである。

次に、原告は冷蔵庫の減価償却の耐用年数を二年、減価償却費を三、一五〇円であると主張し、被告は耐用年数を五年、減価償却費一、二六〇円であるとして争うので、この点について判断する。本件冷蔵庫が中古品であることは当事者間に争いがないところ、前記大蔵省令第五〇号第四条は中古の固定資産等の耐用年数等について「耐用年数の全部若しくは一部を経過した固定資産(営業権を除く。)の耐用年数又は使用若しくは収穫可能の年数の全部若しくは一部を経過した牛馬果樹等の使用若しくは収穫可能の年数は第一条、第二条又は前条の規定にかかわらず、その取得後耐用又は使用若しくは収穫可能と見積られる年数による。」と規定し、法定耐用年数から現実の使用年数を控除した年数をもつて中古品の耐用年数とはしないで、中古品の取得後の耐用又は使用可能と見積られる年数によることを明らかにしている。そこで本件冷蔵庫が五年以上の使用可能年数を有していたか否かについて判断すると、この種の氷冷蔵庫の一般の使用可能年数が五年を越えることのあることは容易に推認できるところであること及び原告が本件冷蔵庫を取得したときから本件口頭弁論終結のときまで五年以上経過しているのに、本件冷蔵庫が使用に耐えなくなつたことについて主張も立証もしないことから考えれば、本件冷蔵庫は取得後五年以上使用に耐えたことが認められるから、本件冷蔵庫の耐用年数を五年と判定したことは相当であるといわなければならず、その償却額は一、二六〇円であるものと認定される。

次に被告は、営業用テーブル九、六〇〇円について取得年月日昭和二九年一二月、耐用年数五年、減価償却額一四四円を主張し原告は右営業用テーブルは取得価格一〇、〇〇〇円未満の固定資産であるから、消耗品費として計上すべきであるとして抗争するが、右営業用テーブル九、六〇〇円は消耗品費の項において判断したとおり減価償却の対象となる固定資産ではないから、これについて減価償却費を計上することは相当でないものといわなければならない。

次に、原告は、別紙図面家屋合計一二坪五合の部分につき、取得年度和昭二七年昭和二六年昭和二八年昭和二四年、取得価格合計一〇〇、〇〇〇円、減価償却費九、〇〇〇円を計上すべきであると主張し、被告は、右家屋は昭和二年に取得されたものですでに減価償却済であるとして争うので、この点について判断する。

聴取人東京国税局大蔵事務官平岡敞至の署名、押印部分の成立について争いがないから、全部真正に成立したものと推定される乙第七号証によれば、本件家屋の部分は原告の父影山庫次郎が昭和の初めに建築したものであり、の部分は昭和二六年ころに建築されたものであることが認定できる。そうであるととすればはすでに償却済みであることが明らかであり、また、の部分は風呂場であることは当事者間に争いががなく、原告の経営する事業がそば屋であり、その内容は、そば、ご飯物類、酒類等を店舗において提供販売するものであるから、風呂場は原告の事業から生ずる所得の基因となり又は事業の用に供する固定資産ということはできず、したがつてこの部分については取得年度について考えるまでもなく減価償却の対象とすることはできない。

そこで、の部分が減価償却の対象となるか否かについて検討するに、本件家屋が木造であることは被告において主張し、原告において明らかに争わないところであるから、木造と認められ、前記大蔵省令第五〇号によれば別表一機械及び装置以外の有形固定資産の耐用年数、「種類」建物、「構造又は用途」木造(簡易木造を除く。)、「細目」旅館、ホテル、料理店、貸席、劇場、映画館、舞踏場、病院、学校、寄宿舎及びアパート用の建物に該当し、「総合耐用年数又は個別耐用年数」は二七年であることが明らかであるが、原告は、右の取得価額について、主張も立証もしないから、その価額を特定することが不可能であり、その減価償却費の計上を認容することができない。よつて、家屋の減価償却費に関する原告の主張は理由がない。

次に、原告は、せいろ、盆について、取得価格一二、〇〇〇円、取得時期昭和二八年一〇月、耐用年数二年、減価償却額五、四〇〇円、釜について、取得価額三、〇〇〇円、取得時期昭和二八年二月、耐用年数五年、減価償却額五四〇円、食器戸棚について、取得額五、〇〇〇円、取得時期昭和二七年四月、耐用年数五年減価償却額九〇〇円、出前箱について、取得価額一、五〇〇円、取得時期昭和二八年一二月、耐用年数二年、減価償却額六七五円の各損金がある旨主張し、被告はこれを争うのでこの点について判断する。

所得税法施行細則第四条第一項本文によれば取得価額若しくは製作価額一万円未満の固定資産については減価償却の規定が適用されないこととなるところ、原告主張の各固定資産の一個または一組の取得価額をみると、せいろ、盆以外は主張自体から、その各一個または一組の価額が一万円未満であることが明らかであり、せいろ、盆については原告はその一個もしくは一組の価額が一万円以上であることについては主張、立証するところがないのでこれを一万円未満であると認定すべきである。したがつて、同条但し書に該当することの主張、立証のない以上、これらの固定資産についてはいずれも所得税法施行細則第四条本文の適用があるものというべきである。しからば、本係争年度においてこれら固定資産について減価償却費を計上することは許されないものである。

以上のとおりであるから、昭和二九年一月ないし一二月間の原告の総所得金額は三四四、五一八円であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

損金明細

公租公課 二二、八三〇円

水道光熱費 四〇、三四五円

旅費通信費 一九、三三〇円

広告宣伝費 四、六六〇円

交際費 一五、七〇〇円

修繕費 四二、八九八円

消耗品費 二二、八一五円

福利厚生費 三、七八〇円

雑費 九、二八〇円

傭人費 一八、〇〇〇円

減価償却費 二四、五四七円

地代家賃 一四、四〇〇円

合計 二三八、五八五円

右のとおり昭和二九年度における原告の課税対象たる総所得金額は三四四、五一八円であるから、本件決定によつて認容した本件更正処分における認定額三一二、五九六円はその範囲内であつて、本件審査決定は適法である。よつて原告の請求は理由がないことに帰するのでこれを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 田嶋重徳 裁判官大関隆夫は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 位野木益雄)

別表一

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別表二 (被告主張各月別仕入金額明細)

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別表三

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別表四 (原告主張各月別仕入金額等)

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別表五 (原告主張各月別仕入金額明細)

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